第3章 血縄の主の大鯰と、裏隅田一族の大宴会

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「……で、なるほど。コロちゃんは猫さんの式神、マロくんはカワウソさんの式神で、こうして人の姿でも活動できる、と」 ユラさんを交えてテーブルについたわたしは、コロちゃんマロくんについての事情を聞いている。 当の二人はとっくに頭の上の耳は引っ込めているけれど、同時に「はい」と返事した声が「にゃい」と聞こえた。 式神、とはわたしがちょっとでもわかりやすいように表現してくれた言葉で、正確には「護法童子」という存在ということだった。 これは密教僧や修験者が従える神霊や鬼神にあたり、西洋の「使い魔」とは異なり主従関係では無いのだという。 コロちゃんはその名を「胡簶童子(ころくどうじ)」、マロくんは「鞠麿童子(まりまろどうじ)」というそうだ。 なんでも長きにわたって瀬乃神宮に合力し、"ユラ"の名を継ぐ歴代の結界守とともに戦ってきた大精霊でもあるとの由。 しかし、まあ……二人ともめちゃくちゃかわいい。 かわいさが先行して、いまさら式神とか護法とかいわれても正直驚かない。 わたしもだいぶ色々と麻痺してきたみたいだ。 「でも長生きするもんだねえ。カフェの仕事するなんて、思いもよらなかったよお」 「あたしは当代が未熟なせいだと思ってるけどね」 マロくんがのんびり言うと、コロちゃんがちゃきちゃきと返す。 いいコンビだ。 「まあ、護法さんにカフェ手伝わせるのもあかんかもやけど……。ほとんど私の言うことら聞いてくれへんわ」 ユラさんが苦笑しながらそう呟く横で、「先代はたくさんお魚くれたわね」「六代目はこわかったねえ」「あたし六代目きらいだった」など、きゃいきゃいと歴代ユラの話で盛り上がっている。 いや、ほんとにかわいい。 「ところで、コロちゃんとマロくんに来てもろたんはカフェの手伝いだけやなくって。実はあかり先生の護衛についてほしいんや」 ぱっと真面目な顔に戻ったユラさんがそう言うと、二人はぴたりと話をやめて威儀を正した。 あやかし文化財パトロールが危険を伴うことはもちろんだけど、常にユラさんや刑部さんと行動をともにできるわけではない。 それでも以前に刑部さんが言った通り、わたしはあやかしに"魂の匂い"というものを覚えられてしまったそうで、普段から怪異に狙われる危険が増したのだという。 そこで、胡簶・鞠麿の二童子がある時は動物の姿で、またある時は人の姿で常に怪異から守ってくれるとのことだ。 これは瀬乃神宮への合力を約した神霊としての務めであり、よほど力のあるあやかしでなければ彼らに近づくことすらかなわないのだという。 「当代由良の名において請い願う。古の約に従い、我らに加護を垂れ給う。"雑賀あかり"師を、魑魅魍魎よりお護り(そうら)え」 ユラさんがそう唱えると、コロちゃんとマロくんは拳を両腰に当てる独特の礼をし、声を揃えて、 「(うけたまわ)って(そうろう)」 と、古式ゆかしい返答をした。 かくしてわたしは、猫さんとカワウソさんのかわいい精霊に守ってもらうことになったのだった。
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