第3章 血縄の主の大鯰と、裏隅田一族の大宴会

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「これはまた――。えらい懐かれたもんやね」 ユラさんが珍しく笑ったのは無理もない。 うたた寝からはっと目を覚ましたわたしの膝の上には茶トラ猫姿のコロちゃんが丸くなり、肩から首まわりにはカワウソ姿のマロくんが巻き付いている。 これはたしかに懐かれたといって差し支えないだろう。 あれから二人は、約束通り常にわたしをあやかしから守ってくれていた。 本来の姿である動物型がもっとも活動しやすいらしく、ほとんど猫とカワウソの状態ではあったけど、陰に陽にあやかしへの警戒をしてくれたのだ。 刑部さんの言った通り、わたしはあやかしたちの標的になっていることをはっきり感じる出来事が何度かあった。 耳の奥できんっ、と鍵がかかるような音がして、頭痛や悪寒がしたときは必ず何かの怪異に出くわすのだった。 それは陵山古墳で見た鬼を小さくしたようなものだったり、得体のしれない虫や鳥のようなものだったり、様々な姿をしている。 けれどそれらと遭遇するとどこからともなく護法童子が現れ、鋭くひと鳴きするとどんな怪異も煙のように蒸発してしまうのだ。 道ばたなど陸の上ならば猫のコロちゃんが、川や池などの水辺ではカワウソのマロくんが。 「あかり先生、だいじょうぶ?」 必ずそう言って気遣ってくれる二人の精霊に、わたしも心強く感謝の気持ちでいっぱいだった。 「あの、いつもほんとに…ありがとうございます!それと、"先生"だなんておそれ多いといいますか…。お二人とも神様みたいなもので、数百年?いえ、千数百年?もおわすのでしたら、わたしなんて小娘どころかなんというか。ですので、"あかり"と呼んでください!」 いつかしどろもどろでわたしがそう言ったとき、二人はきょとん、と顔を見合わせると同時に大きくうなずいた。 「出来た人だねえ」 「ええ、出来人だわね」 「護法使いの荒い人や横柄な人もたくさんいたけど……」 「六代目とかね」 「うーん、六代目ねえ」 ああ、六代目の由良様めっちゃ嫌われてるのね。 「僕たちはね、人間が感謝してくれて必要とされるほど力になるんですよ」 「そうよ。古の約はあるけど、気に入った人のためには力を出し惜しみしない」 「なので、僕たちはあかり先生をとても気に入っているから」 「遠慮せず、対等のパートナーとして付き合いましょう」 「でも"先生"はやめて、とのことなら」 「そうね。こう呼ぶのはどう?」 そして、猫とカワウソ姿の二人は声を揃えてこう言った。 「"あかりん"」 かくしてわたしは、新しいあだ名を賜ったのだった。
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