第7章 不動山の巨石と一言主の約束。裏葛城修験の結界守

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凸凹コンビの修験者に圧倒されたわたしだったけど、2人が巨石の行場で祈りを捧げ始めると今度はその荘厳さに感じ入った。 手前には稲荷社があり、巨石の根元にある祠は真ん中が不動明王、左に金剛童子、右に八大龍王を祀っているという。 不動明王は修験道でよく本尊とされる、仏法を守護する強力な仏尊。 金剛童子とは行者を守る護法神で、大峰山では八大金剛童子とも呼ばれて複数の尊格の総称だそうだ。 ちなみに水に関わる行場に祀られることも多いという。 八大龍王はその名の通りの龍神で、これも本来は八柱の龍の総称だ。この辺りの修験の行場や霊山では龍への信仰も篤く、紀伊らしい神というイメージがある。 修験道は、神も仏も同時に祀る。 なので祝詞もあげればお経もあげるというスタイルで、そういえばユラさんの瀬乃神宮もそれに近い作法を行うと言っていたっけ。 ギャルちゃんとハカセくんはしゃん、しゃん、しゃんと法具の音でリズムをとりながらお経を上げ、これにはミニサイズの錫杖を使っていた。 カラオケマイクくらいの大きさで、杖ではなく純粋に聖なる音を立てるものなのだろう。 "南無当山鎮守" "南無日本国中大小神祇" ナム、で始まる仏式の唱え言葉で、古来の神々を称えることがわたしにはすごく印象的だった。 そういえば平家物語で那須与一が扇の的を射る時、「南無八幡大菩薩」と唱えていたのを思い出す。 八幡さんはもちろん神道の神ではあるけれど、神仏習合の考え方においては同時に仏法の修行者、「菩薩」でもあるのだ。 だから神の身でありながら、僧の姿として表現した「僧形八幡神」というタイプの像が存在している。 「あかり先生。まあちょっとだけ、上の方登ってみいひん?」 祈りを終えた2人が元気いっぱいに誘ってくれるのに応じて、わたしは後をついていくことにした。 お勤めの途中は人間の姿になって後ろの方で合掌していたコロちゃんとマロくんだったけど、今はまた動物姿でそれぞれギャルちゃんとハカセくんの肩に乗っかっている。 大きな岩がゴロゴロしている急傾斜をよじ登り、ひいひい言いながら山坂をしばらく行くと、やがてゆるやかな尾根道へと出てきた。 樹々の隙間から少し里のあたりを見下ろせる箇所もあり、いつの間にか随分高いところまで登ってきたみたいだ。 「まあ少し行くと、この尾根のピークの不動山です。標高は約600mやけど、さらに行くと金剛山地の縦走路"ダイヤモンドトレール"に合流します。普通の登山客の人らもようけいてますけど、行場とも重複してるさかい、行者もよう通る道なんです」 わたしの歩調に合わせてゆっくり登りながら、ハカセくんが説明してくれる。 なるほど、金剛山という霊山と里とを繋ぐネットワークのひとつなのだ。この道は。
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