赤いリボン

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 1ヶ月ほど前から始めたアルバイトはなかなかの高時給だった。バイト料が入った昨日、久々に高級焼肉店で夕食を済ませた私たち夫婦は、10日ぶりぐらいに体を重ねた。旦那も私もあんなに激しいセックスをしたのは、8ヶ月前の入籍以来、初めてかもしれなかった。  本当はゴムをつけて欲しかったが、勢いに任せて体内に放出することを許してしまった。危険日かもしれなかったが、私はそれほど心配していなかった。というのも、これまでにも同じようなことが何度かあったが、妊娠することもなく、つまりはそういう体質なのだろうと思っていたからだ。  大あくびをしながらカーナビに目を向ける。朝の報道番組が流れる液晶画面に表示された時刻は7時41分を指していた。ここへ到着してからまだ11分しかたっていないが、あと19分たてば今日の仕事は終了だ。  午前7時30分から8時まで、たった30分間、指定された場所に車を停めて待機しているだけの業務、それが私に任された仕事だった。  毎日同じ場所に30分間待機しているだけで日給1万2000円ももらえるなんて、初めは驚いたし、危険な仕事なのではないかと疑ったけれど、実際、この仕事を半年以上も前から始めていた旦那に特に問題は起こっていなかったので、私も始めてみることにしたのだ。  本業でやっている旦那は、東京方面に何ヶ所も持ち場があるようだが、バイトである私の持ち場は、郊外の住宅街にぽつんとある「Aガス店の倉庫の横」だけだった。  ガラガラガラガラという音がかすかに聞こえてきた。道路を隔てて、倉庫の向かいには2階建ての小さなアパートがある。上下階それぞれ3世帯住めるような構造になっていて、ガラガラガラガラという音は、その1階角部屋のガラスが開く音だった。お腹の大きい若い女性がベランダに出てきて、いつものように洗濯物を干し始めている。  子どもを産んだこともないし、特に産みたいという願望もない私には、彼女が具体的に妊娠何ヶ月なのか、想像がつかなかったが、その膨らみ具合から、いわゆる「安定期」に入っていることだけはわかった。
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