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Chemical-01
「だからおめぇは駄目な女だっていうんだ、俺に恥をかかせやがって!」
路地に酔漢の罵声が響く。
休憩がてら、お店から外の空気を吸いにきた種村鞠佳は、暗鬱な気分になった。だが、そうも言っていられない。
その酔いどれが、一緒に連れて歩いている女性の襟首をいきなり掴んで引っ張り、ブラウスのボタンが弾け飛んだ。そして、鈍い音──男は連れの女性をフック気味の拳で殴ったからだった。
夜十時過ぎ、新宿ゴールデン街、〈あかるい花園〉五番街──。
「何があったか知らないけどさ、自分の女ぐらいもっと丁寧に扱ったらどうだ、このクズ野郎」
鞠佳は女性に駆け寄って、素早く具合を確認した。左の頬が真っ赤に腫れ、鼻血がぼたぼたと零れている。
「やる気かよ、お姉ちゃん」
男は半身でファイティング・ポーズをとった。
そんなものに鞠佳は付き合い切れない。左足を少し浮かせ、軸にして、男の側頭部に右足で回し蹴りを入れた。
男はバランスを崩して倒れ、起き上がるとそのまま逃げてしまった。
大丈夫? と鞠佳はうずくまって泣いている女の子に声をかけた。はじめこそ、左右に首を振っていたが、鞠佳がじっと見つめるとうなずいた。
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