Chemical-01

1/1
前へ
/16ページ
次へ

Chemical-01

「だからおめぇは駄目な女だっていうんだ、俺に恥をかかせやがって!」  路地に酔漢の罵声が響く。  休憩がてら、お店から外の空気を吸いにきた種村鞠佳(まりか)は、暗鬱な気分になった。だが、そうも言っていられない。  その酔いどれが、一緒に連れて歩いている女性の襟首をいきなり掴んで引っ張り、ブラウスのボタンが弾け飛んだ。そして、鈍い音──男は連れの女性をフック気味の(こぶし)で殴ったからだった。  夜十時過ぎ、新宿ゴールデン街、〈あかるい花園〉五番街──。 「何があったか知らないけどさ、自分の女ぐらいもっと丁寧に扱ったらどうだ、このクズ野郎」  鞠佳は女性に駆け寄って、素早く具合を確認した。左の頬が真っ赤に腫れ、鼻血がぼたぼたと(こぼ)れている。 「やる気かよ、お姉ちゃん」  男は半身でファイティング・ポーズをとった。  そんなものに鞠佳は付き合い切れない。左足を少し浮かせ、軸にして、男の側頭部に右足で回し蹴りを入れた。  男はバランスを崩して倒れ、起き上がるとそのまま逃げてしまった。  大丈夫? と鞠佳はうずくまって泣いている女の子に声をかけた。はじめこそ、左右に首を振っていたが、鞠佳がじっと見つめるとうなずいた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加