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Chemical-04
とにかく、殴られたはんなの左の頬の痕を隠すため、鞠佳はいつも持ち歩いている化粧ポーチの中身をキッチンの床にばらまき、ベースのファンデから、つけ睫毛まで、はんなと名乗る子にナチュラルメイクを施してやった。
「これがナチュラルメイク?」
「この街ではそれがナチュラルメイク、似合ってるよ」
黒髪をぱつんと揃えた前髪、姫カットをしたはんなにとって、こんなメイクをしたことはなかった。
「ありがとう」
「そんな、お礼ばかりじゃ恐縮よ。どうせ今夜はおうちに帰らないんでしょ?」
ええ、とはんな。
「はんなは何枠で聖パルーシアに入学したの?」
「わたしは人外系じゃなかったんです。普通に人間の枠でした、鞠佳さんは?」
「鞠佳でいいよ」
「じゃ、わたしもはんなでお願いします。同期生だなんてびっくり……! 聖パルーシアで人外系の子は研究のためになかなか聖パルーシアから出られないというのに……」
人外系の生徒たちは、なかなか聖パルーシアの外では受け入れられないケースもある。だから、聖パルーシア学園側としても、人外系の生徒を研究しつつ、学園内の仕事や学究の道を用意したり、やはり人外への理解のある企業に就職させる。
「それもあったわね、よくわたしは外の世界に出られたと思う──というより、ゴールデン街が性に合っているのよ」
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