狼のはらわた

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一週間が過ぎた。 刑事部屋の隅で出涸らしの茶を啜りながら週刊誌のエロ記事を眺めていると、原田から着信があった。今夜七時、スギオと繁華街で会う約束を取りつけたのだという。 「手ぶらで来られたら洒落にならねえ。本当に大丈夫だろうな」 「今より大きな拳銃を売ってもらう約束をしてる。心配ない。スギオを現行犯で捕まえられる」 「原田」 「なに?」 電話の原田の声は、心なしかソワソワして落ち着きがない。 「ついでだから、ヤクの売人のこともゲロっちまえよ」 「それは無理。喋ったら殺される」 「おまえの身の安全は、俺の命に代えてでも守る。おまえを脅したヤクの売人にたどり着くヒントのようなもの、くれねえかなあ」 「気楽に言ってくれるよなあ」 「頼むからヒントくれや」 電話の向こうの原田は今、気持ちが揺れている。言おうか、言うまいか。だが、原田は言うだろう。原田は危険な男を俺に退治させたがっている。 「俺を殺すと脅したヤクの売人とスギオは繋がってるんだ。あいつらグルなんだよ」 「確かか」 「本当だよ。嘘じゃない」 ならば話は至って簡単だ。スギオをパクれば、芋づる式にヤクの売人もいずれ必ず挙げられる。 「今夜七時だな」 「ああ。松ビルの三階にあるエロビデオ屋だ。そこに今夜七時」 俺にとっては馴染みの店だ。モテとは無縁な俺は、やむを得ず時々お世話になっている。ああ、早く嫁さんが欲しい。 安物の腕時計に視線を走らせた。 夜の七時を少し回っている。 俺と深尾はアダルト店でエロ本を立ち読みするに相応しい薄汚い格好に変装している。俺たちは、斜め前方の新作売り場に立つ原田を見張っている。原田は巨乳系のエロDVDを手にとって、心ここに有らずといった感じに身を固くしている。 俺はセーラー服の美少女が表紙に描かれたエロ漫画を手にしているが、内容などちっとも頭に入らない。隣で同じようにエロ漫画を手にしている深尾が開いたページに視線を走らせてみた。仰向けになったオタク男の顔に、女王様が馬乗りになっていた。
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