非論理的帰結演算

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 博士は、だいぶ離れた演習場にいる兵士から合図がくるのを待っていた。  何台ものディスプレイに囲まれた、白く明るいモニタールームの真ん中で、忙しくそれらに目を走らせる。  やがて、ヘッドセットに低く太い兵士の声が響いた。 「こっちは準備オッケーです、タナカ博士。雪がちらついてきた。早く終わらせましょう。寒い!」 「こっちもオッケーだよ。戻ったら熱いコーヒーをどうぞ。じゃあ、始めよう」  薄く積もった雪の上を、人間とアンドロイドが並んで匍匐前進し始めたところを想像して、博士は口元を緩めた。……現役兵士の斥候から今日は何を学ぶんだろうな、あいつは。  シミュレーションが始まると、AIの学習したデータが沸き立つ入道雲のように画面に広がってゆく。  順調だな、と博士は椅子にからだを預けた。  その時、ディスプレイに赤いランプが小さく灯った。  ――ERROR。  博士は少しだけ眉をひそめ、身を乗り出してディスプレイに目を凝らした。  演算が止まったのか……違う……オーバーフローだな……大丈夫だ……すぐに自己書き換えコードが立ち上がって……。  次の瞬間、アンドロイドのすべての回路で電気抵抗値がはね上がったかと思うと、すとんとゼロになった。続いて、ディスプレイに次々浮かび上がる「NO SIGNAL」の文字。  博士がこれまで一度も見たことのないデータ。かつてない現象。  目を見開いてディスプレイを見つめる博士の手に、汗がにじんだ。「……何だ?」  その答えを、兵士がヘッドセットの向こうから叫んだ。 「博士! アルバートが!」
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