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「あの朝、アルバートはラボから出るとき『雪が私のからだに積もるといいな』と言った。どうして、と聞くと『雪が降ると、音が消えるでしょう』と答えた」
博士はアルバートから顔を上げると、教会の告解室で自分の過ちを切り出すような口調で言った。
「……オーバーフロー、自己書き換えコード実行、ループ回避。一番取り返しのつかない方法で」
「アルバートが壊れた理由は」
「シミュレーションの途中、自分の頭を自分の手で引き剥がして、中のCPUを力いっぱい引っこ抜いたんだよ」
今度はダニーがうつむく番だった。彼はアルバートの横顔を見つめた。
――辛かったろうな。
そう心の中でつぶやいた自分にダニーはうろたえ、首をかすかに横に振った。
弔辞を締めくくる言葉はなかった。代わりに、小さく息を吐いたダニーの隣で、博士はごん、と台座の取っ手を押した。それが閉まるガラガラガラという大きな音が、空気とダニーを一度大きく震わせた。
アルバートは再びロッカーの中へ静かに収まった。あとは物音もなく声もなく、記録保管庫にはあの日の雪がしんと降りはじめた。
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