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「Aっていたんですか?」
向かいに座ってフライドポテトをかじるダニーのその問いに、タナカ博士はチリビーンズをすくうスプーンの手を止めて、顔を上げた。
「何だって?」
アルト・ドロイド社の昼のカフェテリアは、午前中の会議で既に疲れた営業部のスーツ組と、食べながらも新しい仕様についてあそこはこうで、こっちはこうでと議論するエンジニアの制服組でにぎわっている。
ダニーは、がやがや声に負けないように少し声を大きくして、また聞いた。
「博士がプログラミングしたタイプCは今や、斥候ロボットとして紛争地帯で大活躍でしょう? タイプBはCよりも性能が劣っていたからお払い箱。それは知ってます。B、Cがあるなら、Aは?」
赴任したての若い研究員が屈託なく聞いたその質問に、博士の頭には答えではないことがぼんやりと浮かんだ。
――私がこいつくらいのときは、何を考えて生きていたっけ。意気揚々とこの会社の玄関をくぐったのはいつだっけ……。
博士は、ダニーのその溌剌とした顔を見ながら尋ねた。
「君はAIで何がしたい?」
質問返しにダニーは一瞬面食らったような表情をしたあと、すぐに自信たっぷりな顔になり、はっきりと答えた。
「それは、もう、限りなくヒトの思考と同じ演算処理ができるようにしたいです。淀みない会話、感情豊かで、ジョークもバッチリ。……チューリング・テストを丸一日でもクリアできるような」
「なるほど」
怪訝そうに「タイプAの話はどこへ?」という顔になったダニーに、博士はチリビーンズに目を落として言った。
「タイプAは死んだよ」
ダニーは冗談でしょ、と言うようにうっすらと笑った。「死んだ?」
博士はチリビーンズをかきこむようにたいらげた。口についたソースをナプキンで拭いて、ダニーに良いとも悪いともいう隙を作らせず、立ち上がった。
「そう。死んだ。Aの躯体は『戒めに』地下の保管庫に取っておいてある。見に行こう」
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