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バスから降りて歩く事5分で昨日入居したばかりの新築の我が家に着く。
山の中腹に建つ隣の家まで2~3百メートル離れている一軒家で街の中に建つ物件と同じ値段だったけど、敷地面積は 街の中の物件に比べ10倍以上はある。
玄関の前で暫し新築の我が家を眺めてからドアを開け家に入った。
「ただいまー」
玄関で靴を脱いでいたら廊下の奥から知らないオバサンが現れる。
え、近所の人……か?
って思った私の耳に、「キャァー!」妻の悲鳴が響く。
「どうした!?」
居間に飛び込むと、真っ青な顔をした妻が誰も座っていないソファーを指差しながら震えていた。
妻は私の顔を見ると「そこに知らないお婆さんが座っていたのよー」と震え声で言う。
震える妻の側に歩み寄ろうとした時、「うわぁぁぁぁー!」
「キャーー!」
2階から子供たちの悲鳴が聞こえ、続いてドタドタドタと階段を駆け降りてくる音がした。
子供たちは居間に駆け込んでくると口々に訴える。
「僕のベッドに知らないオジサンが寝ていたんだよー」
「シャワーを浴びようと洗面所に行ったら、青白い顔の女の人がいたのー」
「ヒィ!」妻が短い悲鳴を上げソファーを指差す。
ソファーには知らないお爺さんお婆さんが3人座っていた。
娘が叫ぶ、「この人たち足が無いよー」
「「「「うあぁぁーー!!」」」」
私たちは悲鳴を上げながら外に駆け出す。
私はその際、目に止まった車の鍵を手にとり外に逃げる。
庭に逃げ出した私たちの目に、山の麓から家の前を通り隣町に続く県道を沢山の人のようなものが登って来るのが映った。
あれに接触せずに運転するなんて私には無理。
私たち4人は車の後部座席に逃げ込み抱き合い朝になるのを待った。
翌朝、明るくなると麓から登ってくる人のようなものがいなくなる。
車から降り周りを見渡し人のようなものが見当たらないのを確認してから家の前まで行く、家の中に入る勇気なんて無いから玄関に鍵を掛けた。
それから日頃オカルト物が好きだと公言している勤務先の社長の自宅を訪ね、事情を話して高名な浄霊師のお坊様を紹介して貰う。
高名な浄霊師の高齢のお坊様は助手らしい若いお坊様を数人引き連れて我が家を訪れた。
私たち家族が見守る中で彼等は家の中や敷地それに県道を丹念に調べ、時折合掌する。
若いお坊様たちが集まって来て高名な浄霊師のお坊様に何事か報告。
それを聞き終えた浄霊師のお坊様は気の毒そうな顔をして私たちに話し掛けてきた。
「浄霊は可能ですが焼け石に水になりますよ」
「どういう事ですか?」
お坊様は麓から山の上に延びる県道を指し示し話しを続けるける。
「此処は黄泉に向かう霊の通り道、黄泉路なのです。
ですから霊を浄霊しても直ぐ別な霊が訪れてしまう。
現世に住む私には憶測でしか言えませんが、此の地は三途の川を渡って直ぐの場所なのでしょう。
まだ霊が生前の身体のままいる為、山を登って来て疲れた身体を休ませたいと貴方の家に入って行く。
貴方の家は霊たちにおやすみ処、休息所として使われているのです。
1週間に1度か1ヵ月に1度になるか分かりませんが、その頻度で浄霊する資金があるのなら引っ越しを検討する事をお勧めします」
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