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「下……あの人達も何考えてるんだか。娘なのに」
「仕方ないじゃない。あの人もだけど私達のお父さんお母さんも古い考えのまま生きているのよ」
大きな橋を2人で見上げながら花ちゃんが悲しそうな声でその話をして……弟である僕は黙って俯いていたけれど
(知ってたよ、あの男に別の女が居た事くらい……)
僕だけは、2年前の結納の時も1年半前の挙式の時もあの男の笑みが鉛のように重く穢らわしかった事に気付いていたし、花ちゃんに愛情のかけらもない事を知っていた。
高校生の稼ぎを全て注ぎ込んで調べてみたら案の定だ。……いや、調べるまでもなかったのかもしれない。どう考えてもあの男は僕の花ちゃんに対する恋慕の質が劣っていたのだ。
だけど、結納を終えたばかりの花ちゃんの幸せそうな表情を見てしまったら……僕の唇は糸を縫い付けられたような状態となった。
真実を口にするのが正しいとは限らない
晴れやかな青空や涼やかな風に揺れ動く満開の華やかな花を見てしまった者はきっと、その美しさに心を奪われ言葉を失ってしまうだろう。……2年経った今の僕の唇もやはり、その糸が解けないままでいる。
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