橋を下から見つめる

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「だって花ちゃんは大人だよ。自由な身になったんだから、もっといろんな景色を見て美味しいものをたくさん食べて楽しい時間を過ごすべきなんだよ」  僕だけが立ち上がり、花ちゃんを見下ろすと海風の悪戯で白いワンピースの裾がふわりと持ち上がり……  花ちゃんが、九州のそのまた先に生息するという白くて大きな蝶のように感じられた。  だって花ちゃんは昨日までは土着的な土地に根を生やす一輪の花でしかなかったし、種を生むことなく枯れそうになっていたのだから。  だとすれば僕の小さな手でその花をもぎ取り手品のように金色の(さなぎ)に変えて橋を越えさせたのだと比喩してもいい。  最愛の姉が全てのしがらみから耐えてジッとする時代からは過ぎてしまったのだから。 「太ちゃん……」  僕のつぐんだ唇の奥底で蛹から(かえ)ったばかりの白い蝶は、今の僕をどう捉えているのだろうか? 「今日のところは僕のアパートに泊まらせてあげる。でも明日にはバイバイだよ、花ちゃん」  僕はあの男のような笑みを作って花ちゃんをあの時のような一瞬の幸せを提供してやれているだろうか?  それとも未熟故に唇の糸も何もかもバレてしまっているのだろうか?
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