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暑さも大分と和らぎ出した九月。
まともに歩けるようになるかも分からない、とまで言われていた身体も、零士の手伝いのお陰でほぼ全快していた。
季節をゆるりと追いながら、軒先の鉢に腰掛けて共に団子やら桃をかじり、虫の音を聴きながら夕涼みする。
そんな生活を重ねていくうちに、何時しか互いに、確かに友情でも愛情でもない、べつの“なにか”の感情が生まれていた
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「なあ。もうこのまま、ふつうの女として生きないか」
とある夜半、やけにしつこく零士が諭してきたので、私は唇を一文字に引き結ぶ。
「………無理だ。仇は、必ず討ち果たす。私には…それしか望みはないんだ」
「ダメだそんなの。おまえはここに居て、これからも一緒に飯食って、笑って泣いて怒って、喧嘩してよお……年取っていこうや…」
「そうやって生きていけたなら、言うことないね……どんなにいいかと思うけど、そこまでだよ」
「どうしてだ…。おまえは、おまえだって幸せになく権利はあるんだぞ」
零士は縋るように、甘えるように抱きすくめてくる。
「やめろ、こら。……蹴るぞ」
「そんなこと、おまえはしないよ…」
▼△
常に胸の片隅には別離を置きながら暮らすうち、私はやがて命を宿し────月満ちた真冬の早朝に零士の子を産んだ。
零士は大層喜んだが、一方の私はひどく複雑な心持ちだった。
自分の人生の予定にないことばかりで、今すぐにでもすべてを投げ出して消えてしまいたかった。
そんな葛藤を何度も繰り返したけれども…確かに私にも母性があり、乳を求めて泣く我が子をみる度に“愛おしい”と、零士を愛おしく想うのだった。
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