すみれの詩

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乳飲み子だった我が子がようやく歩き出し、親の言葉を真似るようになり、それからあっという間に10年。 男童は母に似るというが、この子は笑う顔といい、寝姿まで零士に瓜二つだ。 「…仕合わせだった、のかな、私も…」 暢気で、平穏そのものな寝姿を眺める。 長年築いてきた日常が崩れるだなど想像もしていない、心許した顔の父子に目頭がジワジワと熱をもつ。 「…っ、く。ごめんねぇ…」 本当はすべきでないことを、これから始めようとしている自分に対し、言いようも無い感情が湧き出てくるが、それにすら頑丈に蓋をして一息に息を吐いた。 「……どうか、幸せにね。とうさんと、仲良くね…」 九月の冷雨が降る晩、私は夫と息子の元に人の心を置き去りにして、決意と刀だけを持って家を出た。
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