少女貴族と僕

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この碧ばら荘は二階建てだ。一階がバスルームやキッチンなどの生活空間、二階が個室になっている。碧ばら荘の定員は五人なのだが、今の居住者は僕と十文字くんの二人しかいない。これで経営が成り立っているのか心配になる。  階段をあがると三つの扉が右に、二つの扉が左に見える。十文字くんの部屋は左側の奥だ。十文字くんの部屋のドアをノックすれば、しばらくして彼が出てきた。 「……はい」  彼はいつも髪をくしゃくしゃにしていて、眠そうに遠くを見つめている。身だしなみは一応気をつけているらしいのだが、ごく稀によれている服を着ているときがある。今日はいつもどおりのスウェットを着込んでいてほっとした。  十文字蒼夜という青年は、聞くところによると去年高校を卒業したばかりで一人暮らししているのだという。若いのに頑張り屋だなあと感心するのだが、僕も今年で二十歳になる。あまり人のことを言える身分ではない。  彼はあまりプライベートを見せない。十文字くんの背後には部屋の中が見えないように暖簾がかかっている。頼んだことはテキパキとやってくれる子ではあるのだが、ミステリアスな部分があるのもまた事実だった。年齢にしては常人とは違う雰囲気がある。実に不思議で興味深かった。 「これからティータイムなんだけど、十文字くんも良かったらどうかな?」 「行きます。ちょうど糖分欲しかったとこなんで」 「糖分……? なにか勉強でもしてたのかい?」 「まあ、そんなとこっす」  やはり彼は多くを語ってはくれない。いつも眠たそうにしている目も若干泳いでいる。  それでも、眼鏡越しに見る彼の目は、いつも不思議な光彩を帯びている。  目の色の透明度が高いと言ったらいいのだろうか。彼の目は日本人らしく暗い色だったが、真冬の夜空のように透き通っていた。今にも星が流れてきそうな色をしているのだ。  彼の目は見ていて飽きないなあ、といつも思う。 「部屋の掃除してから行くんで、下で待っててください」 「掃除かあ、手伝おうか?」 「大丈夫っス……。二分くらいで終わるんで」  そう言って十文字くんは扉を閉めた。相変わらず気難しい青年だ。  それでも僕やハツエさんのティータイムに付き合ってくれるのだから、多少は心を許してくれているのだろう。
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