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松井小雪が見つかったのは、三日後のことだ。
川沿いで倒れている所を発見されたらしい。
病院に搬送された小雪はそのまま学校に戻ってくることはなかった。
精神が病んでしまい、療養していると噂で聞いた。
小雪の家はいつの間にか村から引っ越してしまい、誰もその行方を知る者はなかったのだが。
高校を卒業した俺は村から逃げるように東京の大学へ、幹太は少し離れた町で就職した。
その町の病院でたまたま幹太は、小雪の父母を見かけて今も彼女が入院していることを知ったらしい。
幹太はあの夏の日の出来事をきっと知らない。
忌むべき、あの村の風習の全てをまだ知らない。
だから。
『小雪、啓介さんのこと好きだったよな、あの世で会えたかな』
小雪があの夏から逃げきれず、連れて行かれたのかもしれないことを幹太は知らない。
何も含まない、人を思う優しい言葉に、ハラハラと涙が零れた。
――因 習――
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