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『小雪が死んだ』
そんな電話がきたのは、大学二年の夏のことだ。
病院の屋上から飛び降りたらしい。
幼馴染の幹太から、電話が来ることは滅多になかった。
だからスマホの表示が、幹太の名前であった時点で何か嫌な予感がしたのだ。
『俺は花でも供えに行こうかと思ってるけど、お前はどうする?』
幹太の問いに少しだけ考えて首を振る。
『なあ、啓二。小雪を最後に発見した看護師が、あれは自殺じゃない、と証言しているらしいんだ』
どういうことだ? さっき飛び降りたって。
『錯乱してたって。見えない何かに、来ないで、と泣き叫んで柵を乗り越えたんだってさ』
嫌だああああ!! 助けてえええ!! お願い、来ないで――。
耳に残る小雪の叫び声が今も胸を抉る。
小雪はきっと、悲鳴を上げ続け、未だ逃げていたのだろう。
何もしてあげられなかった、うだるようなあの夏の日から、ずっと。
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