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私の生活にはいつもずっとジュン君の影があった。
買い物に行けばこれはジュン君が好きだったなとか、この服はジュン君に似合いそうだなとか、そんなことばかり考えていた。
でも明日からその役目はもう私ではない。いや、もっと前から私はお役御免だったのだ。
ただ私は彼の初恋の残像に便乗して、無理やり彼の人生に食い込んでいただけで、ずっと前から私はジュン君とはなんら関わりもない女になっていたのだ。
そんな事実を自分の心で噛み締めると両方の目からボトボトと涙がこぼれた。小学生だった頃の、しかもキスもしていない男に対する恋心で泣くなんて惨めに思えてきて、今度は声を出して泣いた。
きっとリビングにいる母には聞こえているだろう。
でも母は自分の胸にある少しの罪悪感を打ち消すために私に泣くチャンスを与えてくれたのかもしれない。別に親を恨んだりはしない。ジュン君といとこじゃなければ、なんてことも思わない。
ただ今はいままで救われなかった私の初恋に自分で同情して、泣いてあげたかった。
もうこの恋に泣いてあげれるのは私しかいないんだから、せめて私だけでもこの「けっこんとどけ」を大切に葬ってあげたかった。
涙で滲んだ視界の中で仕事用のバッグをあさり、タバコの箱を見つけると中からライターを取り出し、私は「けっこんとどけ」に火をつけた。
じわじわと燃えていく二人の幼い文字をしばらく見つめ、段々と小さくなっていく紙を私は灰皿の上に置いた。左手に持ったタバコに火をつけようかと思ったが前にジュン君が「タバコ吸う子はモテないよ」と言っていた言葉を思い出して、私は箱ごとゴミ箱に放り投げた。
今思えばタバコを吸っていたのもジュン君がタバコ嫌いだったからかもしれない。なんとなく、私はジュン君の気を引いていたかったのだ。でもそれも今日でお終いだ。
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