10人が本棚に入れています
本棚に追加
それから僕らは、夜の町をデートした。
誰もいない遊園地に行ったり、楽器屋の死んだ店主に初心者向けの楽器を聞いてみたり。
絵に描いたような幸福だった。もう恐怖はどこかに消え去っていた。
だから最後に見上げた空を真夏のオーロラが覆っても、僕らは笑っていられた。
「私、結婚してみたかったわ」
「今からでも遅くないさ」
「ホントかしら。もう人間なんて誰も残ってないのよ?」
小さな街灯を立たせたベンチに寄り添って、僕らは言葉を交換する。
他愛のない、出会った頃と変わらない会話。透き通った緑の光に照らされても、それだけは変わらなかった。それが幸せだった。
「僕がいるだろ?」
「告白みたいね」
と少女が笑った。
「みたいじゃないよ。告白してるんだ」
と僕は微笑む。それから彼女の指を取って、たおやかな左の薬指に小さなリングを滑らせた。
「結婚してくれるかい?」
その時、少女が笑顔を浮かべた。それはこれまで僕に向けられていたどの種類よりも、特別な笑顔をしていた。
「喜んで」
僕は彼女の手を握って、そっと呟く。
「死にたくないなぁ」
「ええ、ホントに」
手を繋ぐ。
お互いを確かめるように、見つめあってキスをする。
空を見上げる。
美しい、透き通った緑白色の夜が降ってくる。
最初のコメントを投稿しよう!