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少女は世界が終わることを、これっぽちも信じてはいない。
世界は終わらないと思っているから、彼女は日中の暮らしを謳歌している。中でも人のいなくなった水族館や遊園地なんかは、彼女のオススメの場所らしい。
「おにーさんも、私と同じなんでしょう?」
「……ああ、まったくバカしかいないんだよ。人間なんて」
対して僕は、この世界が終わるのだろうと思っていた。
人は資源を食い尽くして、内面までもエゴで醜く着飾り。未来予報が出来てからは、自分で未来を作ろうとする努力も捨ててしまった。
何を語るにも「どうせ」や「恐らく」をつけてしか語れなくなった人類に、未来なんてそもそもありはしない。
少女を真似て、僕もブランコを漕ぐ。
「だから、君みたいな生きたがりといると気楽でいい」
「私もよ。おにーさんみたいなへそ曲がりとお話しするの、とても楽しいわ」
いつの間にか、少女のブランコは大きな弧を描き始めていた。
「ねえ、へそ曲がりおにーさん」
と彼女は言った。
「何かな、生きたがりお嬢さん」
と僕は応えた。
彼女は靴底で地面を削りながら、ブランコを止める。
「明日も、ここに来てくださるかしら?」
月明かりを砂煙に透かして、少女が僕を見上げた。星を散りばめたような美しい瞳が、不安げに揺れている。
僕はその日、初めて微笑んで答えた。
「もちろん。君が望むなら、この先もずっとここで会おう」
直後、町役場のスピーカーから歪なノイズが走る。
日付変更線を跨いだ町は、どうやらまた一歩滅亡に近付いたらしい。
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