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人生最良の日
生きたがりの少女と出会ったのは、世界滅亡が告げられた次の夜。
いくらでも予兆があったのに今更のように怯えだす人間たちに、僕は付き合いきれなくなっていた。
とは言え、いくら人間に絶望した僕でも死ぬのは怖い。
気を紛らわすために出向いた夜の公園で、僕は彼女と出会った。
『あなたも、世界が滅んでしまうと思ってるの?』
少女は何の脈絡もなく僕に尋ねた。それがまるで、古くから伝わる挨拶であるかのように。
僕は強がって答える。
『とっくに滅んでるさ。人間なんて』
すると彼女は目を丸めて、それから糸が切れたように笑い出した。
『おにーさん、とてもへそ曲がりなのね』
『ああ。質問から察するに、お嬢さんは生きたがりらしい』
『そうね、私は生きたがり。素敵な響きだわ』
それが僕らの、少しだけ変わった自己紹介だった。
その日から僕らは、下らない愚痴なんかを言い合うようになった。
彼女と話している時だけは、僕もへそ曲がりでいられた。だから僕は彼女に感謝しているし、これからも彼女と話をしたいと思っている。
そのためには、僕も彼女のように「世界は滅亡しない」と言い続けなければならない。
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