10人が本棚に入れています
本棚に追加
公園は静まり返っていた。
一組のカップルが寄り添いながら死んでいて、無人のブランコが風に遊んでいる。
僕のようなひねくれ者にとっては、それが公園の正しい在り方に見えた。
けれどそこに、あの生きたがりの少女はいない。
僕は揺れるブランコを捕まえて腰を降ろす。いつも少女の座るブランコは、彼女を忘れたかのように沈黙していた。
どれくらい経ったのか。
もう手足の感覚はない。家を飛び出した時よりも世界は冷たくなっている。このまま少女に会えないまま、僕も冷たくなっていくのだろう。
「世界の終わりも、きっとあの子となら」
白い吐息と共に零れた言葉は、あの日彼女が言えなかった言葉。
あの言葉の先には何があったのだろう?
わからない。だって僕は、あの子の名前だって知らないんだ。
「でも、怖くはなかったんだろうな」
聞かなかった言葉の先を補完して、僕はそっと目を閉じる。
猛烈に眠い。
意識がアルコールを思い出したように薄れていく。テロメアが擦りきれて、僕の余生が尽きていく。
その時、聞いたことのある声が聞こえた。
「ひどいわ、女の子の告白を奪っちゃうなんて」
振り返った僕は息を呑む。
この時、僕はひどく驚いていた。けれど同時に、ひどく安堵していた。
止まりかけた胸の底が、熱を灯してまた活発に動き出したような気さえした。
見上げた少女がにこりと微笑む。
「こーんばんは、へそ曲がりおにーさん」
「あぁ……」
白んだ息が零れる。そして僕は笑って応えた。
「こんばんは──生きたがりお嬢さん」
この結末には、武器も楽器もありはしない。
それでもこの少女と再会した時から、どうしようもなく、僕のハッピーエンドは始まる。
最初のコメントを投稿しよう!