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「今日、千葉くんが当番なんだね」
図書当番の昼休み、僕が本棚の整理をしていると、背後から声がした。振り返ると、詩希先輩が微笑みながら立っていた。
「し、詩希先輩、お疲れ様です。…先輩、当番じゃない、ですよね?」
「うん。でも、私は毎日、図書室に来てるんだ」
「え?」
「ううん。別に、委員長だからってわけじゃないよ。ここが、一番落ち着くんだ。それに…、学校で私の居場所は、ここくらいしか、ないからね」
本棚の整理のためにしゃがんでいた僕は、手に持っていた本を本棚に置いて立ち上がった。僕がした質問に、先輩は微笑んだまま答えた。僕は、先輩が無理して笑っているように見えた。
「…まだ一ヶ月くらいしか経ってないけど、どう?学校には慣れた?」
「まぁ、はい…」
僕が立ちつくしていると、先輩はカウンターに積み重なっていた本を持ってきて、本棚に戻し始めた。それで僕は我に返ってすぐに、先輩のそばにむかった。
「僕がやりますっ!」
「私が好きでやってるんだよ。…でも、千葉くんが当番なのに、私がやるのもね…。じゃあ、半分ずつやろっか」
「はい!」
そして、僕は先輩と一緒に仕事を再開した。
「千葉くんってさ、ほかの図書委員と少し違う」
本棚の整理がひと段落してカウンターに戻ると、先輩はまた微笑んだ顔を僕に見せた。さっきとは違い、今度の笑みは本物だと感じて、僕は驚いた。
「それって、どういう意味ですか!?」
「いい意味でってことだよ。今までの図書委員、ほぼ、私と先生で当番してるんだ。みんな、さぼるんだよね。それに、来たとしても、千葉くんみたいに、自分から本棚の整理なんかしない。まぁ、ちゃんとしてる生徒もいるけどね」
「僕は、ただ、さぼったら先輩に迷惑かかるなって思ってるだけで…。それに本棚は、なんか倒れてたり作者名順じゃなかったりすると目についちゃって、気になるっていうか…」
先輩は意外そうに、僕を見ていた。
「もしかしたら、千葉くんは、根が真面目なのかもね」
「そう、なんですかね?そう言われるのは、初めてです…」
話している途中で僕は、まだカウンターに残っている本があることに気づいた。
「自転車って、書いてある」
「それ、もしかして自転車部の生徒が返した本かも。…そういえば、千葉くんも自転車部だっけ。もし、興味があれば、借りてみれば?」
「え、いいんですか?」
「…え、当然だよ!?図書委員も借りていいんだよ」
「…というか、僕、今まで図書室に行ったことなくて、借り方わからないです…」
「そ、そうなの!?」
先輩は驚いて目を丸くしたまま、しばらく固まっていた。それから、僕は先輩に教わりながら、本を借りた。
「まぁ、当然、一人二人は、図書室に一度も行かない生徒、いるよね。それに、本の貸出や返却は、担当の阿部先生がほとんどやっちゃうからなぁ」
「図書委員なのに、すいません」
落ち着きを取り戻して一人で納得していた先輩に、はずかしくなって僕は頭を下げた。
「いいって、いいって。教えなかった私や先生が悪いんだよ。阿部先生はいい先生なんだけど、世話焼きなんだよね」
先輩は先生に呆れているようだった。
予鈴が鳴った。図書室にいた僕らは、鍵をかけて職員室へとむかった。
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