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僕は、だれよりも早く部室に来ていた。練習をするためだ。
「だれか、来てるのか?」
そんな声がした。僕が声のしたほうを見ると、そこには村井くんがいた。僕も彼も驚いて、黙ってしまった。
「…千葉、来てたのか」
「う、うん」
彼のほうから話しかけてきたのには驚いたけど、少し嬉しさもあった。
「珍しいな、千葉が俺より早く部室にいるなんて」
「そ、そうだね。…でも、僕も村井くんみたいに速く走れるようになりたいから」
「ふーん…」
言いかけて彼は、僕が持っていた本に目をとめた。
「それ、前に俺が借りた本…」
「え、村井くんだったの?この本を借りたの」
つい口に出してしまったようで、彼はそれから黙ってしまった。それでも僕は、彼が自分のことを少しでも聞けて本当に嬉しかった。
「僕、この本に載ってるロングライドに挑戦してみたいんだ。もちろん、村井くんと一緒に」
「あ、俺も、それ挑戦してみたいって思った。…って、なんで、もちろんなんだよ!?」
「……村井くん。僕、もっと練習頑張るからさ。これ、一緒に挑戦しようっ!」
照れている彼に、僕は真剣なまなざしをむけた。それに彼は驚いて、一瞬戸惑ったみたいだけど、しかたなさそうにため息をついた。
「わ、わかった。俺が自転車をうまく乗りこなすコツを教えてやる。そして、一緒に…、ロングライドに挑戦だ」
「よろしく!」
そして、僕らは手を握り合った。握り合った手から伝わる熱で、僕はここにいていいんだと認められた気がした。
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