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「美波さんっ、その手、どうしたの!?」
放課後、私は図書当番を早めに切り上げて、所属している茶道部に顔を出していた。もう活動を始めていた後輩の基本練習に付き合っていると、顧問の水野先生が来て、私の赤いままの手のひらを見て、目を丸くしていた。
水野先生は養護教諭だから、先生には気づかれたくなかった。結局、昼休みにケガをしたまま、保健室に行っていないから。
「えっ…と、実は、昼休みに、階段で転んで…」
話しながら、またイライラしてきた。
「ずっと我慢してたの!?ちょっと、こっちに…」
先生は驚きながら、私をつれて、となりの教室に入った。優しく握られた手はとても温かくて、怒りの感情のほかに不思議な感情がうまれていた。
「……膝は?」
「え?」
先生が離した手を少しさみしく感じていた私に、先生は問いかけてきた。戸惑った私を見て、先生は呆れたみたいだ。
「膝は、ケガしてない?ちょっと見せてみなさい」
「す、少し、しました…」
そして、わたしがケガをした膝を先生に見せると、先生は固まってしまった。
「ちょ、けっこうな、ケガじゃない!こういうケガは、すぐ保健室に来ていいのよ。消毒しないと化膿するわよ」
「は、い」
先生とは去年からの付き合いだから、私を心配して強い口調になってしまうことは知っている。
目が涙目になってきた。先生の強い口調が怖かったわけじゃない。先生が、私の心配をしてくれてることが嬉しかった。
『不思議な感情は、きっと、嬉しさなんだ』
そう思うと同時に、イライラする理由にも気づいた。
『あぁ、私は、自分嫌いなんだ』
あの子になりたいと思う自分。
先生に甘えたい自分。
高校に入ってからみんな離れていって、甘えるだけしか能のない私の居場所はなくなった。
一年生だった去年から輝いてみえたあの子をずるいと感じている。彼女の姿は努力したからこその結果だとわかっている。努力しないで願いを叶えたい自分が間違ってるから、そんな自分にイライラするんだ。
涙をこらえて先生と一緒に保健室にむかいながら、私は『変わりたい』と思っていた。
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