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ここで正直に告白することはできない。かといって晴之に嘘もつきたくない。
「もっと先になったら教えてもいいよ」
迷ったすえ返事をひねりだすも、いつになく食いさがられる。
「なんで?」
「えっと、なんででも」
「どのくらい先?」
「た、たぶん六年くらい」
「六年……」
うつむきかげんで何度か呟き、なにかしら思いついた晴之が、おもむろに視線を恵茉へうつす。
「つきあうとか彼女とか、僕も、もっと先になったら考えるかも。……六年後くらい」
手をのばせば触れられる距離で、目を見かわす。瞳の奥にひそむ輝きに、もしかしたら、と恵茉の直感がはたらく。
ともに過ごしてきたからこその、ひらめき。だけれど、はっきりと言葉にして確かめることはできない。
「そのころ私、二十歳だ。成人式とか楽しみだな」
「お祝いしような、盛大に」
「すっごい期待しとくね」
遠まわしで、もどかしくて、通じあえている保証はない。なんなら、自分に都合のいい思いすごしかもしれない。
それでも大好きな、初夏の太陽を思わせる晴之の笑顔が、寄るべのない心をすがすがしく照らし、憂いの霧をとり払ってくれるから、
「六年、頑張ろっと」
恵茉は、明るい未来を信じていける気がした。
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