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「でもさ、今つきあっても世間がうるさそうでしょ。うちの親は大歓迎だろうけどね、晴くんが相手なら。顔よし、性格よし、将来性あり。好青年の見本ってかんじだし」
杏奈の、晴之への好意的な評価が、湊の胸をちりっと焦がす。彼らの関係性をわかっていても、なんだかおもしろくない。
「そろそろ本腰いれるか……」
ひとしきり杏奈の話に相槌をうったあと、湊がつぶやいた。どれだけ晴之に対抗心を燃やしても、連日なにもせず暮らしている現状では勝ちめがないように思えた。たとえそれが一方的で無意味なことだとしても。
「どしたの急に」
「ずっとこのままってわけにもいかないだろ。近所の散歩くらいはできるようになったから、もっと行動範囲を広げてみる。それで支障なさそうなら学校も」
「ひとりで平気? 付きそったげようか。どっか行きたいとこでもあんの?」
予期していなかった杏奈の配慮に、湊の心がはずむ。
「俺は、とくには。杏奈はないのか、好きな場所とか」
「あるような、ないような」
「なんだそれ」
「だって、あんまりオススメできない」
「どこだ」
「冬の海」
「……寒くないか」
「寒いよ。だから違うとこにしなよ」
「いや、そこがいい。人も多くないだろうからリハビリには好都合だ。それに、杏奈の好きな場所なら俺も興味がある」
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