1.4 杏奈

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「でもさ、今つきあっても世間がうるさそうでしょ。うちの親は大歓迎だろうけどね、晴くんが相手なら。顔よし、性格よし、将来性あり。好青年の見本ってかんじだし」  杏奈の、晴之への好意的な評価が、湊の胸をちりっと焦がす。彼らの関係性をわかっていても、なんだかおもしろくない。 「そろそろ本腰いれるか……」  ひとしきり杏奈の話に相槌をうったあと、湊がつぶやいた。どれだけ晴之に対抗心を燃やしても、連日なにもせず暮らしている現状では勝ちめがないように思えた。たとえそれが一方的で無意味なことだとしても。 「どしたの急に」 「ずっとこのままってわけにもいかないだろ。近所の散歩くらいはできるようになったから、もっと行動範囲を広げてみる。それで支障なさそうなら学校も」 「ひとりで平気? 付きそったげようか。どっか行きたいとこでもあんの?」  予期していなかった杏奈の配慮に、湊の心がはずむ。 「俺は、とくには。杏奈はないのか、好きな場所とか」 「あるような、ないような」 「なんだそれ」 「だって、あんまりオススメできない」 「どこだ」 「冬の海」 「……寒くないか」 「寒いよ。だから違うとこにしなよ」 「いや、そこがいい。人も多くないだろうからリハビリには好都合だ。それに、杏奈の好きな場所なら俺も興味がある」
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