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1.5 文香
「聞いた? 杏奈ちゃんたちの話」
「こないだ家で遊んだやつだよな」
「うん。ようやく前進ってかんじだね」
「ま、いいんじゃねえの。あいつらっぽくて」
金曜、午後十時。毎週この時間は文香と純哉の電話タイム。湊の恋心を察知した純哉の提案で、陰ながらあと押しする作戦会議のためだ。
文香と純哉は、それぞれ杏奈と湊の中学時代からの友人で、高校入学以来、同じクラスのよしみ。まず隣の席同士だった杏奈と湊が仲よくなり、その流れで懇意になった。
人見知りがちな文香だったが、懐っこいようでいてどこか一線をひいている純哉の気くばりや距離感が心地よくなり、惹かれるようになった。なので純哉との電話は、友人の恋を応援するだけではない意味あいをもっていた。
青天の霹靂が文香をおそったのは、そんな浮かれ心のまっただなか。週末、ショッピングモールにおもむき家族たちと離れ、ひとり建物内をまわっていたときのことだ。
突然、凍りついたように足が動かなくなった。視線の先には見おぼえのある姿――純哉と杏奈が楽しそうにヘアアクセサリーを選んでいた。
茫然自失で立ちつくす文香の異様さに、周囲の客たちが反応。そのさざめきを捉えた杏奈がふり向き、声をあげる。
「文香!」
遅れて純哉も。表情をこわばらせ「くそ、失敗した……!」
地獄につき落とされたら、きっとこんな気持ちだろう。ぼんやりとした文香の頭を、そんな考えがかすめていった。
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