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「喜んでほしかったんだ。でも俺、文香の好きなものとか欲しいもの、なんにもわかんなくて。……ごめん」
ぽつり、聞こえてきた声に顔をあげる。隣でやるせなくうな垂れる純哉を見たとたん、渦巻いていた黒い感情が文香の中から跡形もなく消えうせ、言葉がするりと喉からでてきた。
「全然。そんなふうに思ってくれただけで嬉しいよ、ありがとう。あの……私も純哉くんの好きなものとか知らないから、これからはお互いのこと、もっと話してみる?」
意外だったのか、目をみはった純哉が勢いよく顔をあげる。
「文香、そういうの苦手じゃないのか」
「得意じゃないけど、それでも私のこと、純哉くんには自分で伝えたい」
ありったけの勇気。同時に憂慮もわきおこる。
「純哉くんは嫌じゃない?」
自身のプライベートな部分への接触を拒む、純哉の性質はよくわかっている。共感もできる。だから嫌われるようなことは、なんとしても避けたい。
いざとなれば潔く引きさがるつもりでいた。が、純哉は不快感をあらわにするでもなく、わずかばかり瞳をさまよわせてから耳まで真っ赤にして、はにかみ顔でほほえんだ。
「嫌じゃない。文香限定で」
心臓が破裂しそうになるほど刺激的な、とびきりのサプライズ。一足早いバースデープレゼントをもらった気がした文香は、ただそれだけで満足だった。
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