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2.1 大翔
大翔が陽梨に告白したのは六月下旬の梅雨まっさかり。昇降口で傘が壊れて途方にくれていた彼女に予備のを貸した、その翌日だった。
「好きだ。つきあってほしい」
放課後。常日頃のんびりと教室をでる大翔に、人がはけたのを見はからって声をかけたところ想定外にそんなことを言われ、陽梨は返すはずの折りたたみ傘を落っことした。
「え、なんで。私たち接点とかないよね」
そう言ったときの陽梨を、大翔は三か月たった今でも鮮明に思いだせる。あんなに見事な、鳩が豆鉄砲を食ったような顔は見たためしがない。
「去年も同じクラスだったろ」
「それだけだよね」
「そのときから好きだった」
陽梨の頬が、りんごみたいに赤くそまる。感情が表情と直結しているのも、大翔には好もしい。見ていて飽きないし、素直な人間性も信頼にたる。
「いや、だからなんで」
「そうだなぁ、飾り気ないっていうか。そういうの全部が好き。見ためも好きだけど」
陽梨としても、女子のあいだで人気のある大翔のことは憎からず思っていたし、直球なセリフの数々は恥ずかしさもあれど嬉しい。だけれど、あまりにも急で、頭も心も整理がつかない。
「そんなこと言われても……」
陽梨が返事を渋るも、大翔はひるまない。
「ほかのやつにとられたくない。絶対」
熱烈なだめ押し。しかも端正な顔だちで懸命に見つめられては、ひとたまりもない。
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