1.1 陽梨

2/3
前へ
/31ページ
次へ
 さんざっぱら文句を並べたてても、陽梨のいらだちはおさまらない。おまけに大翔が「気にすることないって」などと笑いとばすものだから、なおさら腹がたつ。 「てかさ、否定しなかったってことは大翔もそう思ってるってことだよね」 「思ってないけど、あそこで否定してたら喧嘩になってたかもしれないだろ」 「こうして私と喧嘩になってんなら意味ないでしょ。だったら、むこうと喧嘩してくれればよかったのに」 「俺は、どっちとも喧嘩したくないんだけどなぁ」  背高の大翔が弱りはてて背を丸めるのは、いたずらを叱られた大型犬みたいで、それを見ると陽梨は、どうしたって攻撃の手を緩めざるをえなくなる。 「もういいよ。どうせ私はガサツだよ。自覚あるし」  いき場のないわだかまりを、ため息にして吐きだす。と、隣から聞こえてきたのは意外な返答だった。 「それって、おおらかな証拠だよな」  大翔を見あげる。普段とかわりない横顔は、ご機嫌とりをしているふうでもない。真意を確かめるように陽梨が続ける。 「でも、気が強いし」 「自分の意見をちゃんと言えるのってすごいと思うけどな」 「すぐ怒るし」 「怒る必要のあるとこで怒るのは悪いことじゃないだろ」 「……解釈ポジティブすぎじゃない?」 「そっか? 初めて言われたな、そんなこと」
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加