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1.3 恵茉
「それで毎週末おばあちゃんとこ遊びいくんだってさ。『おばあちゃん道を極める!』とか言って」
県内在住の祖母のもとで包容力や知恵袋を学ぶ、と息まく美優の話を、恵茉が晴之にきかせる。
「猪突猛進。美優ちゃんらしいな」
鷹揚に笑う彼は恵茉の隣に住む青年で、美優とも旧知の仲。今回も美優本人が「アドバイスもらっといて」と恵茉に頼んでいた。
五つ年上で大学生の晴之は美優にしてみればいいお兄ちゃんだったが、生まれる前から家族ぐるみで交流のあった恵茉にしてみれば一言であらわせない存在だった。
家族同然に育ってきた晴之への信頼は揺るぎない。今現在こうして彼の部屋で二人きりであっても、なんら危険はないと断言できるくらい。なのに、それでいて変にどきどきして、妙に落ちつかなくて、ともすると逃げだしてしまいたくなる。無性に離れがたくもありながら。
恋か、憧れか。ひっきりなし、あべこべな感情にふりまわされ、答えのみつからないまま――来年、晴之が二十歳になれば、いやがおうでも大きなへだたりが生じる。
成人と未成年。仮に両者を繋ぐのが恋愛の糸となった場合、はたして世間はそれを許してくれるだろうか。
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