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「雨、やんだんだ」
玄関のドアを開くと、ひやりとした冷気を感じて私は腕をさすった。空気は澄んでいて、梅雨特有の、じめじめした嫌なうっとおしさがなくなっている。気持ちいい。
雨上がりって、なんか好きだな。
汚いものを全部、洗い流して、きれいだけを残してくれたみたいだ。
瑞々しい空気を肺に送ると、不意に亡くなった友達の笑顔を思い出した。ちょっと切なくなる。
ほぅと息をはいて、肩の力を抜き、私はアパートの階段を降りた。
アパートのすぐ目の前は国道。今もちょうど、大型トラックが走り去っていった。深夜だというのに、結構うるさい。
信号待ちをしていると、車のライトが残像で一本の線に見えた。乳白色の光が、右から左へ。左から右へ。交差しながら、私の前を過ぎていく。
まるで、銃弾みたい。
と、思ってしまうのは、さっきまでやっていたゲームのせいだろう。
私がしていたゲームは、二人組でチームを組み、銃で他チームと対戦するものだ。生き残りをかけて戦うゲーム。銃で撃たれても、血がでたりしないから、小学生の間でも人気のあるオンラインゲームだった。
ゲームをしたきっかけは、勤め先の小料理屋がステイホームで、臨時休業になってしまったからだ。彼氏もいなく、暇をもて余した私は、ゲームを始め、はまってしまった。
お店が時短営業で再開した今も、暇さえあればゲームをしている。出かけずに引きこもってパソコンにかじりついているけど、虚しい、とは思わない。おうち最高。私は根っからのインドア派なのだ。
それで、知り合いがいないままゲームをしていたら、たまたま一緒にチームを組んだプレイヤー〝ヨシ〟に懐かれてしまった。
──あそこでロケットランチャーを撃ち込むヤエさんに痺れました。次も俺とバディを組んでください。
バトル終了後、彼から笑っちゃうメッセージがきて、興味本位で了承した。それから、半年間ぐらい、かな? ヨシとバディを組んでゲームをしている。
彼の本名は知らないし、顔も見たことはないけど、オンラインで会話しているから、声だけは知っている。
声が若いから、彼は十代の子だと思う。私は三十を越えているし、彼との年齢はもしかしたら一回りぐらい離れているかもしれない。でも、いいの。
彼のことは詮索するつもりはないし、私のことも教えるつもりはない。
私たちはゲームを楽しむ者同士。
それ以上でも、以下でもない今の関係が、私は心地よかった。
「くわっ……」
ぼーっと信号の前で待っていたら、眠たくなってきた。あくびを噛み殺して、コンビニに向かって歩きだす。ふらりと、足を一歩、横断歩道に進めた瞬間。
全身に、乳白色のライトを浴びた。
首だけを横にむけると、大型トラックが目の前にきていた。このスピードは、私に突っ込んできている?
あれ? 赤信号だったっけ?
そう思った瞬間、私の意識はパソコンを強制終了したみたいに、ブツンと途切れた。
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