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口のなかが酸っぱくて、絶えず生唾がでる。死んだはずなのに、生きているみたいな感覚に眉根がよった。喉を手で押さえていると、頭からしんしんと声が落ちてくる。
「会いたい人、いるんじゃないの?」
ごきゅっ。
喉を鳴らして、唾を飲む。
あの梅干しが無性に食べたくなった。
「……ママに会いたい……」
ぽつりと呟くと、少年がおもむろに私の頭を撫でた。びっくりして腰を引くと、彼の口の端がにっと持ち上がった。
「ママに会いたいんだね。じゃあ、会いに行こう」
どうやって?
聞く前に、またブツンと意識が途切れた。
パソコンが強制終了されたみたいに、目の前は真っ黒になる。
それから再起動をかけるように、視界が鮮明になっていった。
ここは、ママの家?
畳敷きの部屋に、ママの後ろ姿が見えた。正座して、何かを見ている。あれは、位牌? 仏壇がある。線香が頼りなさげな煙をあげていて、ママは背中を震わせていた。
「やえ……」
涙声が聞こえて、ぞっとした。全身の毛穴が粟立つ。
あの位牌は、――私か。
「ま、ま……」
とっさにママに近づいて、肩に手をおいた。
え……手が、ママの体をすり抜けた?
触れられなかった。
何度、手を振り回しても、触れられない。
そっか……
私は死んじゃったから、もう触れられないんだ……
そう思ったら、切なさが身体中を駆け巡り、目から涙がでていた。
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