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私の口から白い光がでた。シャボン玉みたいなそれは、ふわふわ漂って、ママの顔にあたって弾けた。
「やえ……?」
ママが顔をあげる。涙に濡れた目が私を見た。
私が視えている……?
もしかしたらと期待が込み上げた。でも、ママは手で涙をぬぐい、私から目をそらして位牌を見た。切なく微笑まれる。
「……やえの声が聞こえたよ。話しかけてくれたのかい?」
声だけ……なんだ。
少年が言っていたメッセージって、これのこと?
呆然とママを見ていると、重い呟きが耳をかすめた。
「やえがいなくなってから、もう半年だねぇ……」
そんなに経っているの……?
ばっと、辺りを見渡す。壁に留められたカレンダーが目に入る。私が事故にあったのは、梅雨。カレンダーは十二月だった。
「半年、経った後なのね……」
「うん。実はね」
答えてくれる声の方をむく。少年がいた。
「死んだ後、すぐじゃないんだ……」
少年はあいまいに笑って、答えてくれない。
「無意識だったけど、一回目のメッセージは伝えられたね」
「そうなの……?」
「言葉が、言霊になったでしょ? 君が強く伝えたいと思った言葉は、泡沫みたいな形になるんだ。あと二回だよ」
少年は指を二本、立てた。
「ママには、ごめん、だけでいいの?」
ひゅっと息を飲む。
ママに伝えたいこと、まだある。
だけど、ごめんなさいと思う気持ちが大きすぎて、思いは言葉になってくれない。
ママに伝えたいこと。伝えたいのは――
迷っているうちに、ママは腰を持ち上げた。
「そろそろ寝ようかね。おやすみ、やえ」
──おやすみ。
それすら、もう言えないのだと思ったらたまらなくて、私はひゃくり声をだしていた。
「おやすみ、ママ……大好き」
声が言霊になって、ママの頬にぱちりと当たる。おやすみなさいのキスをするみたいに。
ママははっとした顔になって、頬をさすった。
「……やえ……? いるの?」
ママの手が私の体にあたる。するりと通りぬけてしまい、私は涙をこらえきれなかった。
ママは不思議そうに辺りを見回した後、位牌を見つめた。
「……あたしがいつまでもベソベソ泣いているから、でてきたのかい? ……あんたは、やさしい子だからね……」
ママは目頭にたまった涙を指でぬぐった。
「もう成仏しなさい。……ありがとうね」
ママはそう言って、部屋の電気を消した。
涙がぼろぼろこぼれて、私は膝をかかえてしゃがみこんだ。少年が頭をなでてくれる。
「よく伝えられたね」
声は、ひどく優しかった。
嗚咽をもらして泣いた後、私の意識はまたブツンと途切れた。
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