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視界いっぱいに青い空が広がった。入道雲が見える。蝉の声まで聞こえるから、今は夏?
私は空を飛んでいて、足元に学校があった。ちょうど下校時間なのか、半袖の制服をきて、マスクをした生徒たちが校門から出てきた。
「ここは、東京だよ」と、少年が説明してくれた。
「東京?……知り合いなんて、いないよ?」
「いるよ。君は住所を知らないだけ。明日の約束をゲームでした相手がいたでしょ?」
はっと息を吸い込む。
「もしかして、ヨシのこと?」
「うん。彼がヨシだよ」
少年が指をさした方向に、明るい茶髪の男子生徒がいた。だるそうに背中をまるめて、友達と歩いていた。
彼、高校生だったんだ……
「君が亡くなってから、一年が過ぎたころだよ。彼、まだ君を覚えている。こっちにきて」
少年は私の手を引いて、すいっと彼に近づいた。
一年経ったのに、まだ覚えているの?
なんで?
ヨシとは深い付き合いは、なかったのに。
動揺していると、彼と友人の会話が聞こえてきた。
「ヤエさんって人のゲームのアカウント、凍結されたのか」
「あぁ……もう、連絡のとりようがない」
そうだった……
彼としていたゲームは、乗っ取り防止のため、一年間、アクセスがないとアカウントが凍結される。
彼は、私のアカウントをずっと気にしていたってこと?
「その人、仕事してたんだろ? 忙しくて、ゲームをやめたんじゃないのか?」
「そうかもしれないけどさ。約束を破られたことなかったし、何かあったのかなって思って……」
「でも、調べようがないだろ?」
「まあ、な……」
「さっさと忘れろよ。ネット上の人間のことをいちいち気にかけていたら、疲れるぞ」
「……そうだけど」
「まさか好きだったとか? 相手、女の人だったんだろ?」
友達のにやけ顔を見て、彼は嘆息した。
「そんなんじゃない。ただ、どうしたのかなって、思っているだけだ」
彼が空を仰いだ。真上には私がいて、彼と目があってしまった。切なそうな瞳が私を射ぬく。
「ネット上でも、相手は人だ。気になるよ」
彼の言葉に、なくなったはずの心臓がきゅうと痛んだ。
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