ゆっくりお越しください

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ゆっくりお越しください

 享年78歳。 50年連れ添った妻は、最後にそう言って旅立った。  どこへ行くにも一緒だった片割れがいなくなるということは、こんなにも寂しいものかと半身を失ったような喪失感に愕然とする。 「案ずることはない。わしもすぐにそちらに行くだろう」  納骨を済ませた墓前にそう話しかければ、 「ゆっくりでいいですよ。待つのには慣れておりますから」 と、ヒグラシの声に紛れて聞こえた気がした。
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