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血縁者
「父さんは無理だけど、母さん行く?」
リビングのソファから立ち上がり、車のキーを指で回した。
「実は一昨日も、お父さんと行ってきたのよ。掃除がてら」
「あ、そうか」
ありがとうございます。妻の香澄が頭を下げた。
「やだ、香澄さん」母が笑って右手を振ったけれど、ちょっぴり複雑な表情が浮かんだのを僕は見逃さなかった。母にとっては紛れもなく血縁者だからだ。
香澄に悪気がないことは母が一番よく分かっているから、僕は母に向けて微笑んだ。今日は、母の妹と義理の弟にあたる人のお墓参りだ。祥月命日には必ず行くことにしている。
「たかひと」
奥から父の声がした。昨日腰を痛めて横になっているのだ。馴染みの鍼灸院で鍼を打ってもらい、だいぶ楽にはなったらしい。
「おじいちゃんは、いたいいたい」
四歳になる娘のひまりが、肌がけぶとんから出ている父の手をなでる。
「あー治ったよぉ、ひまりちゃんはやさしいねぇ、お医者さんより上手だ」
父はデレデレだ。
「そこにさ」ベッドの上から父が指をさす。
「八海山があるから。雨も降らなかったから墓石の掃除はやらなくていいはずだから、全部かけてやってくれよ。隆弘さんは呑み助だったから。あ、お前はひと口たりとも飲むなよ。車で行くんだろう?」
「ありがとね、父さん」
取り出した日本酒の小瓶を振った。僕と母とは血がつながっているけど、父は生物学的なつながりのない人だ。
なにかを諭すわけでも、慰めるわけでも、これといって励ますわけでもなく。かといって、腫れ物にさわるようでも、無理をするようでもなく、この人たちはそばにいた。
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