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「そろそろ送ります。」
「送るとびっくりするわよ。私の住んでいる寮は、古〜いから。」
「それは、楽しみですね。」
たわいのない話をしながら、香子の最寄り駅に着くと駅のベンチに座る大柄な男が目に入った。
「鈴木主任…」
香子の声に気付いて、そいつがスマホから顔を上げる。
「香、遅かったな…その人は?」
俺に気付いて、目付きが鋭くなる。
思い切り牽制してやがる。
なぁんだ。こういうやつが香子の近くにいるじゃないか。
香子の口ぶりじゃ、気持ちに気づかれていないようだが…
「今日の合コンで…」
「そっか。今日、俺が直帰で約束出来なかったから夕飯、誘おうと思ってアパート来たけど留守だったから駅で待っていたんだ。まぁ、なんだ。俺は用がなかったって事だな。」
勘違いさせて香子のチャンスを潰さないために、生まれかけていた気持ちを胸の奥にねじ込んだ。
「お、香さん。お知り合いですか。」
俺の問いに香子は、そいつが誰か紹介してくれた。
「同じ職場の上司で、お世話になっている方です。」
そうか。
香子の表情で、気持ちも分かってしまった。
お邪魔な俺が去る事でうまくいくといいよな。
「それじゃ私はここで失礼します。香さんに御用のようですし。」
「ありがとう。川田さん。」
「健闘を祈ります。」
香子に聞こえるギリギリの小声で告げるとそいつに託して、次の電車で乗った。
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