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9月3日の朝まだ明けきらない時間のこと。
突然、漏らしたような感覚とベッドの濡れた冷たさに目が覚めた。
何が起きたのか不安でいっぱいになり、慌てて横で寝ているはずの秀介を手で探す。
「しゅ…すけ。」
辛うじて出た声は、小さく気付いてもらえないだろうともう一度声を掛けようとしたところで探していた手をギュッと握られた。
「どうかしたのか。」
「お布団が濡れたみたい。」
私の言葉の意味に気づいた秀介は、飛び起きるとすぐにクリニックに電話をしてくれた。
「破水したなら、すぐ来ていいって。バッグ用意してある?」
「うん。玄関横の部屋の入口に置いてある。」
秀介は一旦、車に荷物を乗せた後、私を支えながら車へ連れて行ってくれた。
「慌てず急いで行くから、辛かったら言うんだぞ。」
「うん。」
車で10分ほどでクリニックに着くと先に破水したため、陣痛促進剤を使うと説明をされた。
「お父さんは付き添われますか。」
助産師さんの質問に秀介が固まったのが、分かった。
「あ、あの…」
「秀介、この場合のお父さんは、赤ちゃんのお父さんって意味だよ。」
秀介に耳打ちすると表情が緩んだ。
「はい。」
「それじゃ陣痛が来たら、教えてくださいね。」
助産師さんが他の産婦さんのところへ行ってしまい、ふたりきりになった。
まだまだ先は長そうだ。
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