あおぞら公園

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

あおぞら公園

 団地に囲まれてろくに日も当たらないような隅っこにその公園はあった。手入れをする人も少なく、雑草がすき放題に伸び、滑り台やブランコは錆ついている。今ではここで遊ぶ子供なんてほとんどいない。時折、のら猫達に集会場として利用されるのが主な役回りだ。“あおぞら公園”という名前がついていたが、そんな事は気にしないで雨は降り注いだ。 「なんでコウちゃんは雨の日にしか遊べないの」  ギーギーと鳴るブランコから飛び降りた拍子に長靴が水を撥ねた。思ったより水溜りが深くて、焦った自分が少しだけ恥ずかしくなる。 「わかんない。父さんが外に出ちゃいけないって言うんだ」 「そーなんだ、かわいそう」 「かわいそうじゃないよ。もう一人じゃないから」  透き通るように真っ白な手を惜しげもなく泥で汚しながらコウちゃんは笑っている。雨を吸った砂場は山やお城を形作るにはちょうどよかった。汚れる事なんてお構い無しに、二人で泥水のダムを作った。コウちゃんはいつも空色のレインコートを着ていた。 「コウちゃんはずっと一人だったの」  私の質問にコウちゃんは答えなかった。その代わりに「また僕と遊んでくれる」と訊いた。はにかんだような、何かにすがるような表情だった。 「もちろん。わたし次の雨の日が楽しみなんだ」  青とピンクの小さなレインコートが二つ、雨の中に咲く紫陽花のように寄り添って揺れていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加