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「シロこそまた夜寝れてないでしょ」
寝てると嘘を吐いてもすぐに見抜かれると思って適当な返事をすると大きな溜息が聞こえた。
「そんな顔するなよ」と曖昧に笑ってみせる。
俺だって好きで寝てない訳じゃないけれど、こんな顔を見たら何だか申し訳なくなる。
心の底から心配な顔をして誰より真っ直ぐ心配なんだと彼は言った。
ヨルにとっても俺は絶対だろうか。
この薬の半分が優しさであるように俺の半分は彼だから。
そしてもしも彼の半分も俺であるなら、俺は。
ヨル。
夜がヨルみたいならいいのに。
どうしてか少し寂しくさせるけど、いつだって優しく俺に夢を見せる。
そうすれば眠れない夜なんて来ないで俺は毎日ぐっすり眠って、きっと今よりはお前に心配をかけないですむのに。
「ヨル、寝れるように何か話してよ」
「むかーしむかし、あるところに」
「俺は小学生か?」
「ってか熱いね。熱測った?」
「いや、」
「38.2℃かな」
「あながちハズレてなさそうなのが怖いからやめろ」
「あれ、言ってなかったっけ、僕、人差し指の先の所に体温計がついてて」
「お前を無口でクールだと思ってる人達にとんだフザけた野郎だって事を教えてやりたいよ」
そう言うと可笑しそうにヨルは笑った。
思わず独り占めしたくなるような柔らかな笑顔を誰にも見られないように胸の奥にしまって、彼に笑い返す。
すべてが完璧な瞬間があるなら今この時に違いなかった。
気づいてしまいたくないんだ。
捨てる事も育てる事もせずもう少しだけ眠らせておきたい。
ふざけ合って笑い合っていなきゃこの現実には勝てない。
俺は弱くて、とても弱いから。
俺を見つめるその瞳も優しく呼ぶその声も。
左端だけを上げて笑う顔も何もかも、今は失くす事は出来なくて。
「そういやさ、ヨルの今度のドラマ超面白いんだけど」
「今最終回撮ってるよ」
「黒幕誰か教えてよ」
「ドラマの醍醐味かなぐり捨てるね」
「あはは、あー、何か、ちょっと眠くなってきた」
既に汗の引いたヨルの手が俺の額を包んでゆっくりと熱を奪っていく。
酷く大切そうに触れる手にくるくると目眩がして、ゆりかごに入った赤子の気分でかけられている彼のジャケットをそっと両手で掴んだ。
目蓋が重い。
柔らかくて温かくて。
もっと話してもいたいけど、睡魔が襲って勝てそうにない。
そっと目を閉じる。
風邪のせいだ。
悲しくて、幸せで、胸が潰れそうなのも全部風邪のせいに決まっている。
そうだろ?
「子守唄でも歌ってあげようか?」
「・・・・ばーか」
優しい夢は見れなくていい。
目が覚めてヨルがそばにいたらそれでいい。
その眼差しをいつまでも感じながら。
胸の奥の宝物。
今はまだ。
「おやすみ」
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