White Night

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動悸、発熱、それから眩暈。 これ飲めば治るよなんて渡されたのは風邪薬だった。 「それでは聞いて頂きましょう。WhiteNightで来週発売の新曲です!」 アイドルは夢を売る仕事だと誰かが言ったけれど、夢を見ているのは俺の方かもしれない。 歌って、笑って、踊って、笑って。 その繰り返しと身体中を痺れさせるほどの歓声が現実を切り離していく。 ふわふわ、ふわふわ。 足元が覚束なくなりそうなこの場所で俺が立っていられるのは彼がいるからだ。 ヨル。 俺の半身。 唯一であり絶対の、相方。 「シロ!」 「・・・ああ、ごめん。ぼーっとしてた」 「熱上がってるでしょ」 「いや、大丈夫」 「楽屋戻ろ」 朝起きた時には既に熱があるだろうと思っていた。 測れば数字が余計に熱を上げそうでそのまま家を出たが、楽屋に入ってすぐヨルは当然のように俺の体調を見抜いた。 昨日からの体調を聞かれ「水分をとれ」だの「薬は飲んだのか」だの隣りで小言の絶えない彼をいなしながら何とか歌のリハーサルを終えたところで、どうやら熱は上がっているらしい。 生放送の歌番組はリハーサルの順番でかなり待ち時間に差が出る。 今リハーサルが終わり、今回はこの後本番まで2時間近くあった。 雑誌の取材か何か、入ってたっけ。 そう思った瞬間「今日はないよ」と言う声がしてドキリとした。 2人組というのはこんなものだと思っていたけれど、仲良くなった芸人の友達は俺達の話をすると目を丸くする。 例えば顔を見るだけで今日の体調がわかるとかそんなありきたりな話から、これでも引かれてしまいそうな話は避けたはずだけど。 俺の左手をヨルの右手が掴み、先を歩いていく。 踊った後なのもあり彼の手も熱く自分の体温と相まってかなり汗ばんでいる。 こんな事を嫌だと思わない事はおかしいのかそもそもそんな事を気にする事がおかしいのか、何だか色々考え過ぎてもうよくわからない。 それなのに目の前のこの男に疑問を投げかけたなら少しも気にせず「何が?」と全く不思議そうな顔をする姿が容易に思い浮かぶのが気に入らない。 風邪に似ているかもしれない。 近くにいるとぐっと体温が上がる感覚も低く響く声に目眩すらするのも。 全部風邪ならよかった。 「何で手を繋ぐんだよ」 「迷子になるから、シロが」 「ならねぇよ」 「嫌なの」 「嫌とかじゃなくて、人が見るだろ」 「今これ、熱測ってるから」 どこにそんな能力があるんだよ。 そうツッコむ前に彫刻のような横顔と180cmを超えるスタイルのヨルにならアンドロイドかサイボーグか何かだと言われても信じるかもしれないなと考えた。 自分も2、3cmくらいしか違わないが。 いやだからこんな大男2人が手を繋いで歩いてたら目立つだろ。 そして楽屋に戻るまで何人かのスタッフとすれ違い、それに何食わぬ顔で挨拶を交わす彼の後ろを苦笑いで頭を下げながら歩いて行った。
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