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「なんか残念。なくした物、見つかると思ったのに」
「なにをなくしたの?」
「ヘアピン。紫の、花の形のやつ」
「ああ、あれ」
Aさんは返信を打ちながら、かつてBさんの前髪をまとめていたヘアピンを思い出しました。そういえば、確かに最近見ていません。
「この前、犬の散歩に行ったときに落としたみたい。風が強かった日で」
「諦めなよ、残念だけど」
そんなメッセージを送ると、
「そうた」
いきなり、意味の分からない平仮名三文字だけが返ってきました。
「どうしたの?」
慌てて返信すると、しばらくして、
「ああ、ゴメンゴメン」
と、返ってきました。それから電話がかかってきて、
「さっきメッセージを打ってる途中にね、急にアシスタントが起動したの。なにも聞いてないのに、〔K川の河川敷〕って文章が表示されたの。ね、これって〔神招き〕の結果だよね」
興奮したBさんの声に、Aさんは怖くなって、落ち着くように諭しました。けれどもBさんは、
「これから、河川敷に行ってくる。本当にヘアピンがあれば、〔神招き〕が本当だったって証明できるもん」
「今から?やめなって、もう真夜中だよ」
「大丈夫、大丈夫」
スマホの向こうから、身支度でもしているのか、バタバタと慌ただしい音が聞こえてきます。
そのとき、Aさんは全身の毛が逆立つ思いがしました。
物音に混じって電話口から、ふふ、と野太い男の声が聞こえたのです。
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