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「今日、花火見に行こう!」
彼女との間柄は、以前は幼馴染、現在は一応彼女……恋人のほうの彼女だ。
しかしそんなことを企画しているのなら、出来れば数日前に声をかけて欲しかった。 期末テストは終わっているから、やいのやいの言う気はないけれど……。
開始が七時半、会場のほうで何か食べることを考慮すると、ここでダラダラしている時間はない。 親に花火大会に行く旨を告げ、用を足して麦茶を一杯呷っただけですぐに家を出た。
会場までは徒歩では二十分ほどかかる。 自転車で行ければ楽だったのだが、危ないから、と親が許可してくれなかった。
弟に『デートなんだから、恋人つなぎして歩いて行けば~?』とからかわれたので、一発どついておいた。 デート言うな! ……いや、デート、なのか?
あいつも同じく制服のままだ。ほらみろデートというよりも、日常の延長じゃないか。
コンビニで食糧買い出しをする。 恋人だったらここは洒落たカフェとかに入るものなのだろうが、いかんせん時間もなければ財力もない。 こいつとは、気取っていても仕方ない。 等身大でいいのだと思う。 ……彼女自身は、思いっきり夢見がちだけれど。
夢見がちかと思えば、まあ、なんだ。 黙って花火観賞が出来ないらしい。 いや、知ってる、こいつはこういう奴なのだ、分かっている。
ムード云々よりも花火を楽しみに来ているのだから、まあいいといえばいいのだろう。
「見た? なんか文字でてなかった?!」
「えー……なんだよ、花火で『LOVE』とか?」
「いやいや! そんなの打ち上げたら、爆発してすぐ消えちゃうじゃない! ダメでしょ!」
「えー、心に残るんなら別によくね? 消えても」
「……案外ロマンチスト?」
「お前が言うか? 大体」
「あ、ほら―――、次きた、わー! 連続―――! 」
……聞いてないし。 別にいいけどな。
隣で同じものを見ている、この時間に意味があるんだろうから。
「っは―――! ジュースありがと! いやー、声出したわー、スカッとしたわー」
「はいはい。 今日が金曜で良かったな、明日休みだし」
「……楽しかった?」
「楽しめたよ。 花火は綺麗だし、お前は喧しいし」
「えー、何それ、もう〜」
そんな話をしている間に、家の前にたどり着いた。 うちとこいつの家はお向かいさんだ。 ゆえに幼馴染。
「今日は本当ありがとね! それじゃ」
「おう。 おやすみ」
「…………!」
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