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ナイトメア症候群
いつの日か現実に疲れた人が眠ったまま起きないという症状が全世界で報告されるようになり、日本でも1人、また1人とこのナイトメア症候群になる人が増えていく。
眠っているだけで死んでいる訳ではない、しかし起きない事から身体が衰弱死や餓死等をしてしまう。そしてまだこの病気の治療薬は開発されていない。
ピッピッと無機質な音が響く病室に俺の幼なじみの朱里がほっそりとなって寝ている。
もう1ヶ月は眠っている、ナイトメア症候群と診断されて起きた事例はまだひとつも無い。それでももし起きる事があるのならとナイトメア症候群になった人の家族は考え、起きるか分からないこの状況でひたすら病院で点滴をし辛うじて延命している。
俺もそれにすがりついている1人だ。
起きる確率はほぼ無い、もう何年もこの症候群の研究がされているのに起きる事が未だにない。
何せ現実世界に疲れた人が眠るとそのまま起きない、それはある種自分の意思で起きようとしない起きたくないという事が考えられるからだ。
朱里はずっと笑顔で明るい人だった、名前の通りに明るくて優しくて誰よりも可愛くて俺の大好きな人だった。
朱里は玄関の鍵を掛け忘れて学校帰りに帰宅した家には母親が包丁で刺された状態で発見された。
鍵を掛け忘れた事で空き巣に入られ仕事終わりの母親が帰ってきて慌てた空き巣は包丁で母親を刺したそうだ。ニュースでそう流れてきた。
それから朱里は人が変わってしまった。
「自分が玄関の鍵を掛け忘れなければ…」とずっと自分を責め続けた。
俺はずっと隣に居たのに肝心なことは何も朱里には届かなくなっていた、もっと早く自分の気持ちを伝えてれば、もっと自分が朱里の事を見ていれば、もっと自分が。
そう俺が考えている時に朱里は眠ったまま起きなくなった。ナイトメア症候群だと診断された。
また大好きな朱里と話したい、起きて欲しい。
その想いだけで毎日学校帰りに病院に行き面会時間が来るまでひたすら朱里の名前を呼んだ。
朱里の頭の隣にシュシュがある。
朱里に唯一プレゼント出来た朱里のお気に入りのシュシュ、いつの日かこのシュシュが俺にそっくりとか言ってたな、まるで宇宙みたいな色合いに幼いながらに朱里は意外と大人っぽい物が好きなのかと思った。
俺は宇宙のように大きくない、こんなにちっぽけな存在なのだから。
今では朱里は宇宙へ行くよりももっと遠い存在になってしまった気がする。
「すみません…そろそろ面会の時間が終わります」
看護師さんが俺に声を掛ける、毎日こうしているので顔も覚えられているだろう。
「…分かりました、すぐ帰ります…」
そう看護師さんに返すと少し会釈をして去っていった。
「朱里…早く起きてくれ…」
自分はとても無力なのだと実感した。
実際に無力なのだ。
「朱里…おやすみ、また明日来るから」
そう眠っている朱里の額にキスをして病室から出る。
俺が朱里と同じくナイトメア症候群になったのならまた朱里と話せるだろうか。
なんて無駄な事を考えながら。
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