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パッと目が覚めた、朝の日差しがカーテンの隙間からチラリと見える。大きく伸びをしてベッドから下りる。日差しを遮るカーテンをゆっくりとカラカラと開くと目が痛くなる程の明るさに一瞬たじろぐ。
目が慣れてきてゆっくりと空を見る、雲ひとつない晴天だった。
「雲ないの珍しいー」
なんて呑気に考えているとお母さんの声が下からする、多分1階から私を呼んでいる。
「今行くからー!」
朝ごはんが出来たのだろう、今日はなんだろう、目玉焼きがいいな。
なんて考えながら自室を出る、どこか眠い身体を伸ばしてゆっくりと階段で1階へと降りる。
「はい、これ朝ごはん、食べたら食器はシンクに置いといて」
お母さんはせっせといつも通りの説明を口にする。
「分かってるって、時間そろそろでしょ?お母さん行ってらっしゃい」
「もうこんな時間!行ってくるわ!学校行く時は鍵をちゃんと閉めていくのよ!」
「はーい、いってらー」
お母さんに出されたレタスとミニトマトのサラダとトーストと目玉焼き、うんとてもいい朝ごはんだ。
いつも通りにお母さんは仕事に行く、玄関からバタバタと音がする。毎回毎回同じ言葉を言うのは疲れないのか、それとも忙しさから同じ言葉なのも気付いていないのか。
などどうでもいい事を考えながら朝ごはんを食べきる。
お母さんの言う通りに食器はシンクに起き水に浸す。
朝ごはんも食べた事だし私も学校の準備をしなければ、そう思いまた自室に帰り制服に着替える。
「今日は髪型どうしようかなー」
部屋に1人だと独り言を言う癖が着いてしまった、心の中で思うよりはっきり自分の声として出した方が考えやすいのもあるが。
最近は暑い日もあるから髪はアップの方がいいか…でも今日体育ないしそのまま降ろしてもいいな…学校への髪型を考えるのは私の朝の楽しみの1つでもある、これでもないこうでもないと繰り返しやっと今日の髪型が完成した。1つの横結び、しかも今日はいつもより低めで結んでいる。高めだと手直しが面倒なのだ。
ふふん、と上機嫌でシュシュを選ぶ、今日はこれかなと深い藍色ベースにキラキラと小さな黄色の星が散らばるまるで宇宙みたいなシュシュを手に取り横結びにそのシュシュを付ける。
これを付ける日はとても気分のいい時と朝一緒に学校までいける時のみ。
ピーンポーンッ
そう思っていたらインターホンが鳴る、今日は一緒に学校へ行く約束の日だ。
急いで玄関へ向かう、忘れ物もきっとない、いつまでも履きなれないローファーを履き玄関を開ける。
「おはよー!」
「おはよう、いつにも増して元気だな」
「そう?いつも通りだって」
茶色に染めた髪に私より18cmも高い身長、幼なじみの藍唯がいつも通りに玄関先で私を待っている。
「おい、玄関の鍵かけ忘れてるぞ」
「やっば、また忘れてた」
藍唯の方に歩いていた足を止め、言葉通りに玄関の鍵を掛けて開かない事を確認して再度藍唯へと駆け寄る。
「そのおっちょこちょいなとこどうにかしろよ」
「出来てたら苦労してないんだけど」
藍唯のツッコミにぶーとブサイクに頬を膨らませて威嚇と言わんばかりに睨む。
「はいはい、そんなブサイクな顔すんなって」
「乙女に対してブサイクとはなんだ!」
「お前って乙女だったの?」
「れっきとした乙女ですけど!!」
なんていつも通りのコントを繰り広げながら駅へと向かって歩く、なんだかんだで優しい藍唯、そんな所が好きだったりする。
幼なじみというポジションは非常に厄介だ。
幼なじみであるが故両親も認知している、幼い頃からずっと遊んで育って笑って時には喧嘩して…そんなある意味特別なポジションは恋愛に置いて邪魔だったりするのだ、これ以上進めないやら幼い頃から一緒だから異性として見ていない等…SNSで調べれば調べる程このポジションは恋人へのワンアップを妨げるのだ。
例えお互いが両片思いだとしても。
藍唯が私を好きなのも知っている、そして私も藍唯が好きである。私が藍唯を好きなのも藍唯は知っている。ここまで聞いて何故告白やら付き合うやらしないのかは幼なじみのポジションの方がどうしても有利なのだ。だからお互い分かっていながら進めない。
はぁ…と藍唯に気付かれないように小さく溜め息をつく、どうせ恋人になるつもりがないのならば存分に幼なじみというポジションを満喫したい。
「あれ、それ俺があげたやつじゃん」
「おー藍唯から気付くなんて珍しい」
「何そのいつもは気付いてないみたいな」
「本当の事でしょ?」
シュシュは藍唯がくれた物だ、もう随分前にお店で見つけたこのシュシュに一目惚れした私は買おうとした所一緒に遊んでいた藍唯が『誕生日プレゼント』と称して買ってくれたのだ。
今なら分かる、どうしてこのシュシュに一目惚れしたのか、藍唯にそっくりだ。
藍唯は私の事を私より理解していてそれでいて隣にいてくれる、まるで何もかも受け止めてくれるみたいに、受け止めて私が見失わないように藍唯が私を照らしている。宇宙に広がる星々のように。
だからこのシュシュは藍唯と一緒に学校に行く時ばっかり付けるようになった、私の想いに気付いてくれますようにと願いながら。
「なぁ」
歩きながらふと藍唯が声を出す。
「んー?何?」
横にいる彼を見上げる、身長差のせいで見上げる形になっているのが悔しい。
「早く起きないのか…?」
「は?何言ってる」
「もう起きないのか?」
「待って、藍唯いきなりどうしたの?何の話?」
見ていたはずの藍唯の顔が段々と崩れていく、おかしいと思い何度も瞬きをする、それでも顔の形がどうしても分からなくなる。
「朱里!!」
藍唯の声だけははっきり聞こえるのに言っている意味が分からない、徐々に足元がぐらっと揺らぐような感覚になる。
なにこれ、地震?
「朱里!」
揺れ始めた地面を見ていた私だがまた藍唯が私の名前を呼ぶ、だから彼を見上げた、そう、見たつもりだった。
彼の姿は無く地面がガラガラとひび割れてまるでこの世界が崩壊しているようで。
「藍唯!!」
怖くなった私は姿の見えない藍唯にしがみつく様に蹲る。今度は瞼がどんどん重くなって眠気で意識が飛びそうになる、怖い、助けて藍唯。私の必死の呼び掛けにはもう誰も答えてくれなくて私は目を閉じた。
パッと目が覚めた、朝の日差しがカーテンの隙間からチラリと見える。大きく伸びをしてベッドから下りる。日差しを遮るカーテンをゆっくりとカラカラと開くと目が痛くなる程の明るさに一瞬たじろぐ。
目が慣れてきてゆっくりと空を見る、雲ひとつない晴天だった。
「雲ないの珍しいー」
なんて呑気に考えているとお母さんの声が下からする、多分1階から私を呼んでいる。
「今行くからー!」
そう返事をし、今日1日が始まると意気込んでまた大きく伸びをして1階へ向かった。
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