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「勝行くんが手を支えてくれていたから、少しマシになったよ」
「本当ですか……これで?」
「ああ。彼の胸のやけど痕とか、痒みも伴うんだろうね。すごい爪を立てたりするから、しょっちゅう血まみれになってしまうんだ」
「……あの。お金はいくらでも払うので、そういうところも全部治療してもらえますか……?」
「ふふ、面白いことを言うね勝行くんは。もちろんスタッフ全員、いつも全力で彼の治療にあたっているよ。傷口もそれほど酷くないだろう?」
「あっ……すみません、失礼なことを」
「いいや。それでもこんなに発作が酷いのは、原因が今までとは違うところにあるからかもしれない。年齢的にもそろそろ一度徹底的に再検査した方がいいかもしれないね。一度検査入院することも考えてもらおうかな」
「検査……入院、です、か」
「うん。あとは精神的な何かもあるね。多分……ここ最近、警察の事情聴取が続いていて疲れているのに、寝入りばなに発作ばかり起きるから、ずいぶん参っているようだ。一度心療内科の先生にも診てもらおう。あと検査入院の件は君たちのお父さんと相談したいんだが、連絡は取れるかな」
「はい、すぐ確認します」
うっすらと戻る意識の向こう側で、勝行と主治医の声が交互に聞こえていた。いつの間に戻ってきたのだろう。もう夜なのだろうか。そんなことを考えながら、光はゆっくり目を開けた。目を閉じる前に見た制服姿がもう一度映る。
「……」
声は掠れてうまく出なかった。きっとさっきまで喘息の吸入薬を投薬されていたのだろう。あれの直後は声帯が使い物にならないのだ。
「起きた?」
目を覚ましたことに気づいた勝行が、汗だくの光の前髪を何度も梳いた。
「どこか痛むところはないか」
座るような姿勢で眠っていた光と、傍でパイプ椅子に座って頭を撫でてくれる勝行の視線はほとんど同じ高さだった。その手に頬を摺り寄せ、出せない声の代わりに頬を動かして手に伝える。
「お」「か」「え」「り」と。
「うん……」
どこか寂し気な様子で頷くと、勝行は両手を頬に添えたまま、優しい口づけを落とした。
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