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主治医に「ちょっとだけ!」とごねて中庭に出る許可をもらった光は、すっかり土の乾いた芝生に転がり込んだ。
いつもなら一人で来るのだが、今日は念のためにと付き添いがいる。
「あっ光さん、そんなところに寝転がったら泥まみれに」
「いいんだよ、これがしたくて来たんだから」
煩い小姑がもう一人――。夏でも暑苦しいスーツ姿で光を見守る相羽家専属のSP・片岡荘介が、垂れた眉尻をさらに下げて苦笑した。
この男は勝行と光の父親・相羽修行の付き人だったはずなのだが、光が拉致監禁事件に何度となく巻き込まれたせいか、いつの間にかWINGSの専属護衛として常に背後にいるようになった。とはいえ、警察や医師のように、質問攻めや説教はしてこない。何を考えているかはわからないが、終始にこにこした顔をこちらに向け、ただ黙って見守っている。ずいぶん変わった大人だ。
「気持ちわりぃな。笑うなよ」
「すみません、これが素面でして」
「なんか、護衛ってもっと厳つくて怖そうなもんなのに……」
「見た目怖そうな方がいいですか? ではこうしておきますね」
にっこり笑って胸元から分厚いサングラスを出すと、スチャリと装着して再び仁王立ちになる。身長も筋肉もそれなりにあって身体は厳ついから、確かにサングラスをかけたらまるでヤクザの付き人のようだ。
彼は相羽家で最も腕っぷしが強いらしい。だが光はまだ一度も片岡が誰かと戦闘している姿を見たことがない。普段はほわんとした顔で車を運転したり、勝行に頼まれた書類や珈琲を届けにくる。最初はただのパシリかなと思っていたぐらいだ。
石像並みに動かない片岡を無視して、光は本来の目的を果たそうとシロツメクサの群生地に手を伸ばした。ごろんとうつぶせになり、横着しながら周囲の雑草に目線を集中させる。
(やっぱ……四つ葉ってそう簡単には見つからないな。あの日はたまたま運がよかったのか)
けれどやはり、あのアイテムが欲しい。
一度は見つかったのだ、きっともう一度チャンスはあるはず。
奇跡を信じるくらいなら、自分で偶然の機会を増やす努力くらいはしておきたい。時折ほふく前進のような姿勢で場所移動しつつ、光は許される限りの時間を使ってひたすら四つ葉のクローバーを探し続けた。最中、片岡や医師に何度か話しかけられていることにも気づかないほどに、真剣に。
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