……義兄弟だから(挿し絵)

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 ……義兄弟だから(挿し絵)

** 鳥のさえずりと川のせせらぎに混じって、だんだん祭囃子が聴こえてくる。嬉しくなって駆け出すと、足元の砂利がいくつも蹴飛ばされて転がっていく。 「音、祭りの音が聴こえる」 「待ちな光、走ったら病み上がりの身体によくないって」 案内する勝行が暴走気味の光を引き留めようとその浴衣に手をかける。 「ほら、暴れたりするからはだけてる。もう少し締めるか。こっち向いて」 「う……」 和装の着付けに長けている勝行は、もぞもぞ落ち着かない光の襟を強引に引っ張り、帯を締めなおしていく。大人しく着せ替え人形になりながら、光は目の前にいる勝行をじっと見つめていた。 彼は白と青のさわやかな浴衣を綺麗に着こなし、前髪もサイドに流してワックスでまとめている。いつもとは違う、大人びた姿。洗練された清く正しい家柄の子息らしい雰囲気が全身から漂ってくる。時々落ちる髪を拭いながら手を耳にかけるその仕草が艶っぽくて、心臓がトクンと高鳴った。 「髪の毛もセットしたけど、汗かいて崩れちゃったね」 手を伸ばし、勝行は汗の垂れる光の頬をひと拭いした。それから同じ髪型で揃えた前髪を撫でつけながら「ゆっくり行こうな」と微笑む。それは本当に、大人が子どもの面倒をみるような仕草だった。 ac0903ea-f9d8-44d3-9924-73fd7c0db20a その手で自分の頬を——耳を、やんわり撫でられたい。もっと……触ってほしかった。 そんなもやもやした感情を慌てて打ち消し、光は勝行の後ろについて再び砂利道を歩き出した。
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